「自社株の評価方法が変わるらしい」
顧問の税理士さんや金融機関から、こんな話を聞いた社長も多いのではないでしょうか。
国税庁は2026年4月から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開き、非上場株式(自社株)の評価方法を見直す議論を進めています。今の評価の基本となる通達ができたのは昭和39年(1964年)。約62年ぶりの大きな見直しです。
まだ決まったことではありません。しかし、国税庁が9月に公表した試算では、大会社の株価の中央値が今より5割以上高くなるという結果も出ています。利益をしっかり出してきた会社ほど、影響を受けやすい内容です。
この記事では、2026年10月時点で国税庁が公表している資料をもとに、次の3つを整理します。
- 何が変わろうとしているのか
- 株価が上がりやすい会社・下がりやすい会社
- 決まる前の今、社長が準備しておくこと
1.なぜ今、自社株の評価が見直されるのか
今の制度では、会社を「大会社・中会社・小会社」に分け、規模に応じて「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」を組み合わせて株価を計算します。
この仕組みには、以前から次のような指摘がありました。
- 同業の上場会社の株価をもとにする類似業種比準方式は、理論的な裏付けが弱い
- 会社の規模区分や利益を調整することで、株価を大きく下げられてしまう
- 同じような会社でも、規模区分の違いで評価に大きな差が出る
こうした問題を受けて、国税庁は有識者会議を立ち上げ、2026年9月16日までに6回の会議を開いています。
2.何が変わろうとしているのか(2026年10月時点の案)
8月20日の第5回会議で、国税庁は見直しの方向性を示しました。主な内容は次のとおりです。
| 項目 | 今の制度 | 見直しの方向性(案) |
|---|---|---|
| 会社の規模区分 | 大会社・中会社・小会社で計算方法が違う | 区分をなくし、規模に関係なく同じ方式で評価する |
| 類似業種比準方式 | 大会社・中会社の評価の中心 | 残すことは難しいのではないか、とされている |
| 新しい方式 | ― | 「残余利益方式」を中心にする(会社の純資産に、数年分の「標準を超えるもうけ」を加える考え方。もうけが標準に届かなければ差し引く) |
| 純資産価額方式 | 小会社などの評価の中心 | 資産を多く持つ会社など「特定の評価会社」向けの方式にする |
| 配当還元方式 | 少数株主向け | 対象の範囲を見直したうえで残す |
あわせて、株価を下げる目的で使われてきた次のような方法への対応も検討されています。
- 会社の規模区分を操作する方法
- 一時的に利益を下げる方法(ふだんの利益をもとに評価する案)
- グループ会社を使う方法(100%子会社を含めてグループ全体で評価する案)
- 株主の構成を変えて配当還元方式を使う方法
9月16日の第6回会議では、さらに細かい論点が示されました。たとえば、標準を超えるもうけを5年分加えること、社長の親族に払っている役員報酬の一部を会社の利益として扱うかどうか、などです。
3.株価は上がる?下がる?国税庁の試算
第6回会議の資料には、実際の申告データ(1,378社分)を使った試算が載っています。新しい方式で計算すると、今の申告での評価額と比べてどうなるか、という試算です。
前提は「標準を超えるもうけを5年分加える」「資本コスト8%」「しんしゃく率0.8」です。しんしゃく率は、計算結果をどの程度割り引くかを示す数字で、まだ決まっていません。
| 会社の区分 | 株価の中央値の変化 | 今より低くなる会社の割合 |
|---|---|---|
| 大会社(128社) | 約72%上がる | 約24% |
| 中会社(820社) | 約12%上がる | 約42% |
| 小会社(430社) | 約22%下がる | 約68% |
| 全体(1,378社) | 約2%上がる | 約49% |
出典:国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第6回)資料」(2026年9月16日)の試算を、しんしゃく率0.8の場合で整理。大会社・中会社・小会社は今の制度での区分です(たとえば従業員70人以上の会社は大会社)。
全体ではほとんど変わらないように見えますが、中身は大きく違います。しんしゃく率をいちばん低い0.7にした場合でも、大会社の中央値は約50%上がる結果です。
つまり、今の制度で株価を低く抑えられていた会社ほど、見直しの影響が大きくなりやすいということです。特に、次のような会社は注意が必要です。
- 毎年しっかり利益が出ている
- 大会社・中会社の区分で、類似業種比準方式を使って株価を抑えてきた
- グループ会社や持株会社を使って株価を下げてきた
- 役員報酬や退職金のタイミングで、株価が下がる年を作ってきた
反対に、利益が少ない会社や、純資産に比べて利益が小さい会社は、今より低い評価になる場合もあります。
4.いつから変わるのか
2026年10月時点で、いつから適用されるかは発表されていません。具体的な計算式や数字もまだ決まっていません。
国税庁は「今秋を目途に一定の方向性を示す」としています。最終的には税制改正の手続きの中で決まるとされているため、年末に公表される税制改正大綱は確認しておきたいところです。
会議の委員からは「事業承継への影響が大きい」「十分な準備期間が必要」という意見も出ています。経済産業省も、評価が上がると事業承継や投資に悪い影響が出るおそれがあるとして、慎重な検証を求めています。今後、内容が変わる可能性も十分にあります。
5.決まる前の今、社長が準備しておくこと
「決まってから考えればいい」と思われるかもしれません。しかし、株価の対策や株の移し方には、何年もかけて進めるものが多くあります。決まってから動き始めると、使える選択肢が少なくなります。
今のうちに、次の4つを確認しておくことをおすすめします。
①今の制度での株価を知っておく
直近の決算で、自社株がいくらになるのかを把握しておきましょう。比べる基準がないと、見直し後に株価がどれだけ変わるのか判断できません。
②新しい方式で、上がる側か下がる側かの目安をつかむ
計算式はまだ決まっていませんが、国税庁が示した計算例の前提を使えば、自社が「上がりやすい会社」か「下がりやすい会社」かの目安はつかめます。
③株を誰に、いつ、どう移すかを考えておく
後継者への贈与や譲渡を考えているなら、今の制度のうちに進めるのがいいのか、見直しを待つのがいいのかで判断が分かれます。会社によって答えは違います。
④納税資金と社長の退職金を準備しておく
株価が上がれば、相続税や贈与税の負担も増えます。後継者が払える資金があるか、社長の退職金をどう準備するかは、株価と一緒に考えておく必要があります。
ここで大切なのは、株価だけを見て判断しないことです。役員報酬、社会保険料、退職金、保険、後継者の手取りまで、全体で考えなければ、株価は下がったのに会社と家族に残るお金は減った、ということも起こります。
まとめ
- 自社株の評価方法が、約62年ぶりに大きく見直される方向で議論されている
- 規模区分の廃止、類似業種比準方式に代わる「残余利益方式」が中心
- 国税庁の試算では、大会社の株価の中央値は5割以上上がる結果。利益が出ている会社ほど影響を受けやすい
- 適用時期や計算式は未定。ただし、準備に時間がかかるため、今の株価の把握から始めておきたい
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この記事は2026年10月24日時点の公表資料をもとに書いています。制度の内容は今後変わる可能性があります。個別の判断は、顧問の税理士さんなどの専門家にご確認ください。
参考資料
・国税庁「審議会・研究会等(取引相場のない株式の評価に関する有識者会議)」
・国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)資料」(2026年8月20日)
・国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第6回)資料」(2026年9月16日)
執筆:株式会社アクアライフ 代表取締役 茶谷清士
税理士と社労士の隙間を埋める手取り最大化コンサルタント
