顧問先を多く持つ税理士の先生に向けた記事です。
自社株評価の見直しについて、社長から「うちの株価はどうなるの?」と聞かれたときの答え方が分かります。
あわせて、どの顧問先から先に声をかけるべきか、先手の対策をどう分担するかを整理します。
先に結論
- まだ何も決まっていません。2026年10月時点では国税庁の有識者会議で議論している段階で、適用時期も計算式も公表されていません。「案」として説明するのが正確です。
- 影響は会社ごとに大きく違います。国税庁の試算では、今の大会社は上がりやすく、小会社は下がる会社も多いという結果です。顧問先を「利益の出方」と「今の会社規模の区分」で分けておくと、説明の順番が決まります。
- 税務の判断は先生、先手の対策と実行は私。株価の計算と申告は先生の領域です。私は、役員報酬・社会保険・退職金・承継の段取りまで含めて、社長の手取りが残る形を先に考え、実行を支えます。
見直しの中身(2026年10月時点の「案」)
なぜ見直すのか
きっかけは、令和6年11月の会計検査院の検査報告です。評価方式によって評価額に大きな差が出ることや、配当還元方式の還元率が今の金利水準に比べて高いおそれがあることが指摘されました。これを受けて国税庁は、2026年4月20日に「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を始めました。国税庁のホームページで確認できる最新の回は、9月16日の第6回です(10月25日時点)。
財産評価基本通達は、昭和39年(1964年)に定められて以来の基本の形が続いており、今回は約62年ぶりの大きな見直しになる可能性があります。なお、通達は法律ではないため、国会の議決を経ずに改正されます。
第6回の資料で示された主な方向性
| 項目 | 今の制度 | 資料で示された方向性(案) |
|---|---|---|
| 会社の規模区分 | 大会社・中会社・小会社で計算方法が違う | 規模別の評価方式をやめる |
| 中心となる方式 | 類似業種比準方式と純資産価額方式 | 「残余利益方式」(純資産に、5年程度の「期待される水準を超えるもうけ」を加える考え方) |
| 利益の基礎 | 比準要素(配当・利益・純資産) | 法人税申告書の別表四・五をもとに、過去5年の年平均利益などを使う |
| 資産管理会社など | 特定の評価会社 | 4つの型に整理し、純資産価額などで評価 |
| 配当還元方式 | 少数株主向け | 残すかどうか、算式を見直すかが検討事項 |
還元率(株主が通常期待する収益率)を一律にするか、上場と非上場の差を反映するかも、次回以降の論点とされています。
顧問先から聞かれやすい6つの質問と答え方
Q1.いつから変わるのですか?
「まだ決まっていません」が正確な答えです。第6回の資料にも適用時期は書かれていません。解説記事の中には具体的な年を書いているものもありますが、国税庁の公表資料にもとづくものではありません。例年12月に公表される税制改正大綱や、その後の通達改正の案(意見公募)を待って判断する、と伝えるのが安全です。
Q2.うちの株価は上がりますか?下がりますか?
国税庁は、実際の申告データ1,378社分を使った試算を示しています(加算期間5年・還元率8%の仮定、しんしゃく率は0.7〜1.0で試算)。しんしゃく率0.8の場合の結果は次のとおりです。
| 今の区分 | 評価額の中央値の変化(今の申告評価額との比較) | 今より低くなる会社の割合 |
|---|---|---|
| 大会社(128社) | 約72%上がる | 約24% |
| 中会社(820社) | 約12%上がる | 約42% |
| 小会社(430社) | 約22%下がる | 約68% |
| 全体(1,378社) | 約2%上がる | 約49% |
出典:国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第6回)資料」(2026年9月16日)の試算をもとに整理。しんしゃく率は検討中の仮定の数字です。
資料自体も「個社の資産・収益状況によって結果は異なる」としています。社長には「利益をしっかり出していて、今は類似業種比準方式で株価を抑えられている会社ほど、上がる方向に動きやすい」と傾向だけを伝え、個別の数字は案が固まってから、と区切るのがよいと考えます。
Q3.今のうちに後継者へ株を移したほうがいいですか?
税務の判断は先生のご判断です。そのうえで、社長と一緒に整理しておきたいのは次の点です。
- 今の株価と、見直し後に上がりそうか下がりそうかの向き
- 後継者が決まっているか、株を持つ準備(納税資金・経営への関わり)ができているか
- ほかの相続人とのバランス(遺留分を含む)
「下がるかもしれない会社」が急いで移すと、かえって不利になる場合もあります。向きが分からないうちに動かない、という判断も大切です。
Q4.身内の役員の報酬が多いと、何か影響がありますか?
第6回の資料では、代表者の親族である役員の報酬のうち「経営の対価を上回る部分」の一定割合を、会社の本来の利益とみなして加える案が示されています。役員報酬は株価だけでなく、法人税・所得税・社会保険料にも同時に関わります。株価の面だけで決めず、全体で見直す必要が出てくるかもしれません。
Q5.退職金を払えば株価は下がりますか?
資料では「評価の直前期に多額の役員退職慰労金を払い、利益を下げて株価を圧縮しているケースが見受けられる」として、退職金のような一時的な損失は、正常な利益を計算するときに除いて考える案が示されています。一方で、支払った退職金は会社に戻らないため、純資産の修正はしない方向です。退職金は「株価を下げる道具」より、「社長の引退後の生活と承継資金をどう用意するか」で考える場面が増えそうです。
Q6.持株会社や子会社がある場合は?
完全支配関係にある子会社の株式は、適正な価額に直して親会社の評価に反映する案です。また、資産管理会社は「特定資産の帳簿価額が総資産の70%以上」または「特定資産からの運用収入が総収入の75%以上」で判定する案が示されています。グループ全体の形を見直すかどうかは、案が固まってから慎重に判断すべき論点です。
先に声をかけたい顧問先の見分け方
全部の顧問先に同じ説明をするのは大変です。次のような会社から順に話題にしておくと、「先生は早めに教えてくれた」という信頼につながります。
- 今の区分が大会社・中会社で、毎年しっかり利益が出ている
- 類似業種比準方式で、純資産価額よりかなり低い株価になっている
- 社長が60代以上で、後継者への株の移し方をまだ決めていない
- 親族役員の報酬が多い、または近く退職金の支給を考えている
- 持株会社・子会社・従業員持株会がある
注意点とデメリット
- 案はこれから変わります。しんしゃく率・還元率・加算期間はどれも検討中です。今の試算の数字を、顧問先ごとの答えとして伝えるのは避けるべきです。
- あわてた対策は逆効果になり得ます。株価が下がる側の会社が先に動くと、税負担が増えることもあります。
- 株価だけで判断すると、手取りを見落とします。役員報酬・社会保険料・退職金は、株価と同時に会社と社長の手元に残るお金を左右します。
- 先生の事務負担が増えます。案が固まると、試算の依頼が一度に来る可能性があります。今のうちに対象の顧問先を絞っておくと、負担を分散できます。
税理士の先生と私の役割分担
私は、税理士の先生と伴走する立場です。顧問の関係はそのままに、次のように分担します。
| 税理士の先生 | 私(アクアライフ) |
|---|---|
| 株価の計算・申告・税務の判断 | 社長の手取りが残る形を先に考える(役員報酬・社会保険・退職金・承継資金) |
| 顧問先との日々の関係 | 社長・後継者・ご家族との話し合いの段取りと、実行の支え |
| 最終的な税務の確認 | 社会保険の手続きは提携の社労士と確認して実施 |
顧問先は、あくまで先生のご紹介で届く相談です。税務の判断に私が入ることはありません。
実際に、税理士の先生と連携して見直しを行った会社では、社会保険料と税金を合わせた会社全体の年間削減額として、次のような結果が出ています。
- 製造業(石川県・従業員6名):約395万円
- 建設業(富山県・従業員4名):約146万円
- 医療・介護(富山県・従業員110名):約482万円
※社会保険料だけの金額ではなく、税金と合わせた会社全体の年間の金額です。効果は会社ごとに異なります。
今やるべきこと(確認ポイント)
- 顧問先を「今の区分」と「利益の出方」で分け、影響が大きそうな会社に印をつける
- その会社の今の株価(直近の決算での評価)を把握しておく
- 後継者・親族役員の報酬・退職金の予定・グループの形を確認しておく
- 税制改正大綱と通達改正の案が出たら、印をつけた会社から順に説明する
まとめ
- 自社株評価の見直しは、2026年10月時点ではまだ「案」。適用時期も未定
- 国税庁の試算では、利益の出ている大会社ほど上がる傾向。ただし個社で大きく違う
- 役員報酬や退職金で株価を抑える考え方は、見直しで効きにくくなる方向
- 税務は先生、先手の対策と実行は私。分担して、顧問先の社長の手取りを守る
顧問先への説明、一緒に準備しませんか
顧問先の決算書3期分をお預かりすれば、役員報酬・社会保険料・退職金まで含めて、社長の手取りが増える余地を試算します。株価の計算と税務の判断は先生にお任せし、私は先手の対策と実行を受け持ちます。
面談はオンラインで全国対応です(北陸三県の方は、ご希望があれば2回目以降に訪問します)。顧問の税理士さんとの連携も可能です。一社ずつ時間をかけるため、お受けできるのは毎月5社までです。
この記事は、2026年10月25日時点で国税庁のホームページで確認できる資料(第6回 有識者会議まで)をもとに書いています。見直しの内容はすべて検討中の案で、今後変わる可能性があります。
参考資料
・国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の開催について(2026年4月16日)https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/pdf/kaisai_kabukaigi.pdf
・国税庁「審議会・研究会等」https://www.nta.go.jp/about/council/kenkyu.htm
・国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第6回)資料」(2026年9月16日)https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260916/pdf/06shiryo_kabukaigi.pdf
執筆:株式会社アクアライフ 代表取締役 茶谷清士/税理士と社労士の隙間を埋める手取り最大化コンサルタント
※本記事は一般的な制度の解説です。個別の税務判断は提携税理士、社会保険の手続きは提携社労士と確認のうえ実施します。
