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社長の手取りを増やす5つのレバー|役員報酬・社保・退職金・自社株・保険【2026年11月時点】

利益は出ているのに、税金と社会保険料ばかり増えて手元に残らない。そう感じている法人経営者に向けた記事です。

この記事では、社長の手取りを決める5つの要素(役員報酬・社会保険料・退職金・自社株・保険)の全体像と、それぞれを動かせる時期、代わりに小さくなるものを、2026年11月時点の制度で整理します。

結論:先にお伝えしたい3つのこと

  1. 手取りは、額面の高さではなく「お金の通り道」で決まります。年収1,800万円の社長の手取りは、概算で約1,187万円。額面の約66%です。
  2. レバーは5つあり、互いにつながっています。1つだけ動かすと、別のところで損をすることがあります。毎月の報酬を下げて社会保険料を抑えた結果、功績倍率法で考える退職金の目安まで下がるのが典型例です。
  3. 動かせる時期はレバーごとに違います。役員報酬は原則として期首から3か月以内、退職金は引退の何年も前からの準備が必要です。「気づいたときには今期は動かせない」が、いちばん多い失敗です。

まず現在地:年収1,800万円の社長の手取りはいくらか

毎月150万円を12か月受け取る社長を例に、2026年分の概算を出します。

項目 金額(年・概算)
額面の役員報酬 1,800万円
社会保険料(本人負担) 約167万円
所得税(復興特別所得税を含む) 約307万円
住民税 約140万円
手取り 約1,187万円(額面の約66%)

さらに会社は、本人とほぼ同額の社会保険料を負担しています。会社から見れば、約1,967万円を用意して、社長の手元に残るのは約1,187万円。およそ6割です。

前提:協会けんぽ富山支部の令和8年度の料率(健康保険9.59%+介護保険1.62%+子ども・子育て支援金0.23%)、厚生年金18.3%、社長は40歳以上65歳未満。控除は給与所得控除195万円、社会保険料控除、基礎控除(所得税62万円・住民税43万円)のみ。住民税は同じ年の所得で計算し、調整控除などの細かい計算は省いています。配偶者控除や生命保険料控除があれば、税額は少し下がります。

所得が増えた分にかかる税率は、この例で約44%(所得税33%に復興特別所得税を加え、住民税10%を足した率)です。報酬を100万円上げても、手元に増えるのは約56万円。報酬をただ上げるだけでは、手取りは増えにくいのです。

手取りを決める5つのレバー

レバー 動くもの 動かせる時期 代わりに小さくなるもの
①役員報酬の額 個人と法人の税の配分 原則、期首から3か月以内 法人か個人、どちらかの手元資金
②社会保険料 保険料の負担 報酬を決めるときに一緒に 年金・傷病手当金など
③退職金 引退時の税負担 引退の数年前から準備 会社の資金(支払時)
④自社株 相続・承継のときに出ていくお金 何年もかけて 株を持つ人の支配権など
⑤保険 資金の時期と受け取り方 退職・相続の時期から逆算 保険料として毎年出ていく資金

レバー1:役員報酬の額(法人と個人、どちらに残すか)

役員報酬は、会社の損金(法人税の計算上の経費)になる一方で、個人の所得になります。所得税は5〜45%、これに住民税10%が加わります(2026年分は所得税額の2.1%の復興特別所得税も加算。2027年分以後は内訳が変わりますが合計は同じです)。一方、法人税の税率は、資本金1億円以下の中小法人で年800万円以下の所得に15%(年10億円超の所得がある事業年度は17%)、それを超える部分に23.2%です。これに地方法人税・住民税・事業税が加わります。

2026年4月1日以後に始まる事業年度からは、防衛特別法人税も始まりました。法人税額から年500万円を引いた額に4%がかかります。課税所得が約2,400万円以下の中小法人では、通常は発生しません。

なお、15%の軽減税率は「2027年3月31日までに開始する事業年度」が期限です。中小企業庁は見直しのうえで2年の延長を要望していますが、当記事の時点で決定は確認できていません。

注意したいのは、法人に残したお金は、そのままでは社長の手取りにならない点です。個人に移すときに、配当や報酬、退職金として改めて課税されます。「今の税率」だけで比べず、最後にどの形で受け取るかまで見て、配分を考える必要があります。

毎月の報酬は定期同額給与のルールで、原則として期首から3か月を経過する日までに改定しないと、損金にならない部分が生じます(法人税法第34条第1項第1号、同施行令第69条第1項。臨時の改定事由や業績悪化による減額などの例外があります)。

レバー2:社会保険料(上限と賞与の扱い)

厚生年金の標準報酬月額の上限は65万円(賞与は1回150万円)、健康保険の上限は139万円(賞与は年度の累計573万円)です。毎月の報酬と賞与で上限のかかり方が違うため、年収が同じでも受け取り方で保険料は変わります。

年収1,800万円で「毎月10万円+賞与1,680万円を年1回」にした試算では、労使合計で年約206万円の差が出ます(前提は関連記事「役員報酬の社会保険料を合法的に抑える方法|事前確定届出給与のしくみと注意点」に書いています)。かなり極端な受け取り方で、これは保険料だけの差です。本人の減少分は約半分で、社会保険料控除が減る分だけ税は増えるため、個人の手取りの改善は年約58万円(上の税率で試算)にとどまります。会社も損金が減る分、法人税が増えます。

代わりに、将来の年金、傷病手当金、遺族厚生年金も小さくなります。何が、どれくらい減るかは関連記事「役員賞与で社保を下げるデメリット|将来の年金・傷病手当金・退職金への影響」で数字にしています。届出の期限は関連記事「事前確定届出給与の届出期限はいつ?3月決算の例と、失敗しないための実務の流れ」をご覧ください。

なお、厚生年金の標準報酬月額の上限は、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円へ上がることが決まっています。報酬の高い社長は、何もしなくても保険料が増えます(月75万円の時点で本人負担は年約11万円増。その分、将来の年金も増えます)。

レバー3:退職金(税の負担が軽い受け取り方)

退職金は、勤続年数に応じた退職所得控除を引いた額の2分の1だけが課税の対象になります(所得税法第30条)。ほかの所得とも分けて計算されます。

たとえば、勤続30年で5,000万円を受け取ると、控除は1,500万円(800万円+70万円×10年)、課税の対象は1,750万円です。税額は概算で所得税約433万円、住民税175万円となり、手取りは約4,392万円(約88%)です。同じ額を報酬で受け取るより、個人の税と社会保険料の負担は軽くなります。ただし、原資を法人に残す間の法人税等も含めて比べる必要があります。

注意点は3つあります。

  • 役員としての勤続が5年以下の部分には、2分の1の扱いがありません。
  • 不相当に高額な部分は損金になりません(法人税法第34条第2項、同施行令第70条第2号)。判断によく使われる功績倍率法は、退職の直前の報酬を基礎にします。
  • 支払う年に会社の資金が必要です。資金の準備がなければ、この有利さは使えません。

レバー4:自社株(社長の「最後の手取り」を左右する)

自社株は毎月の手取りには出てきません。しかし、相続や承継のときに、社長の家族と後継者の手元から出ていくお金を大きく左右します。

ここで大きな変化が議論されています。国税庁の有識者会議では、会社の規模で分けた今の評価方法を廃止し、「残余利益方式」に見直す案が示されています。2026年9月16日の第6回資料の試算(還元率8%・しんしゃく率0.7と仮定)では、株価の中央値は大会社で約50%上がり、小会社で約32%下がるとされました。中央値の比較なので、個々の会社の向きは分かれます。

ただし、これは案の段階です。2026年11月4日に確認した国税庁の掲載では第6回が最新で、計算式の細部や適用時期は決まっていません。詳しくは関連記事「自社株評価が約62年ぶりに見直しへ 利益が出ている会社ほど株価が上がる?社長が今から準備しておくこと」をご覧ください。

レバー5:保険(目的ではなく、資金の時期を合わせる道具)

保険は、それ自体で手取りを増やすものではありません。役割は、必要な時期に必要な資金を用意することです。使いどころは主に2つです。

  • 退職金の原資:法人で受け取る解約返戻金や保険金を、退職金の支払いに合わせます。受け取った額から資産計上額を引いた差額が益金になるため、退職金の損金と時期を合わせて考えます。
  • 相続の備え:被相続人が保険料を負担した死亡保険金を相続人が受け取ると、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります(相続税法第12条)。法人が受け取る保険金は対象外です。

法人の保険は、2019年7月8日以後の契約から税の扱いが変わりました。最高解約返戻率が50%を超える定期保険などは、保険料の一部を資産に計上する期間があります(一定の少額の契約を除く)。「全額が経費になるから入る」という考え方は、今は通用しにくくなっています。昔の契約も、出口(いつ解約し、何に使うか)が決まっているかの確認が必要です。

レバーはつながっている

5つを別々に考えると、次のような「部分最適」が起こります。

  • 社会保険料を下げるために毎月の報酬を下げた → 功績倍率法で見た退職金の目安まで下がった
  • 法人の税を減らすために保険に入った → 解約の年に利益が出て、株価や税の負担に響いた
  • 退職金を厚くして株価が下がる年を作る予定だった → 見直し案の「ふだんの利益」で評価する考え方が採用されると、効き方が変わるおそれがある
  • 報酬を上げて個人に現金を残した → その現金も相続税の対象になった

税は税理士さん、社会保険は社労士さんの領域です。だからこそ、両方をまたぐ「手取り」の全体は、誰も見ていないことがあります。

どんな会社・社長が当てはまるか

  • 毎年安定して利益が出ていて、社長の報酬が高い(厚生年金の上限は月65万円)
  • 60代で、引退と後継者への承継の時期が見え始めている
  • 法人に現預金がたまり、自社株の評価が気になっている
  • いつ、どの目的で入ったか説明できない法人保険がある

反対に、利益が少ない会社や報酬が高くない社長は、社会保険料のレバーの効果は小さくなります。従業員10人未満の小さな会社でも、社長の報酬と退職金が主なレバーになることはありますが、まず優先すべきは資金繰りです。

注意点・デメリット

  • 節約した額がそのまま手取りになるわけではありません。保険料が減れば税は増えます。保険料を下げれば将来の保障が、保険や退職金で税を減らせば会社の資金が減ることもあります。
  • どのレバーにも「縛り」があります。届出どおりに賞与を払えない、期中に報酬を変えられないなど、業績が動くと裏目に出るものがあります。
  • 制度は変わります。自社株の評価見直しや軽減税率の延長のように、決まっていないものを前提に大きく動くのは危険です。
  • 実態のない報酬や、形だけの手続きは論外です。税務調査や年金事務所の調査で否認されれば、追加の負担が生じます。

今やるべきこと:まず確認したい5つのポイント

  • 自分の手取り率を知る:源泉徴収票と住民税の通知書から、額面の何%が手元に残っているか
  • 次に動かせる時期を確認する:決算月と定時株主総会の日。役員報酬を決める期限はここから決まります
  • 引退の時期と必要な資金を書き出す:何年後に、いくらの退職金を、どの資金で払うか
  • 今の株価を把握する:直近の決算で自社株がいくらか。見直しの影響を測る基準になります
  • 保険の一覧を作る:契約者、目的、解約返戻金のピーク、出口の予定

どのレバーをどの順で動かすかは、利益の水準、社長の年齢、後継者の有無で答えが変わります。一般論だけで決めず、自社の数字で並べて比べてから判断してください。

まとめ

  • 年収1,800万円の社長の手取りは概算で額面の約66%。報酬を上げるだけでは増えにくい構造です。
  • 手取りは、役員報酬・社会保険料・退職金・自社株・保険の5つのレバーで決まります。
  • レバーは互いにつながっていて、動かせる時期もそれぞれ違います。
  • 自社株の評価見直しなど未確定の論点もあるため、確定した制度と案を分けて考えることが大切です。

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この記事の時点と注意書き

この記事は2026年11月4日時点の法令と公表資料にもとづいています。保険料率は協会けんぽ富山支部の令和8年度の料率で、加入先や都道府県によって異なります。2026年分の所得税の基礎控除は、令和8年12月1日施行の改正後の額です。試算は制度のしくみを示すための概算で、個別の事情は含めていません。実際の判断は、税理士・社労士と確認してください。

参考資料

  • 国税庁 タックスアンサーNo.2260 所得税の税率
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
  • 国税庁 タックスアンサーNo.1199 基礎控除
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1199.htm
  • 国税庁 タックスアンサーNo.1410 給与所得控除
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm
  • 国税庁 タックスアンサーNo.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
  • 国税庁 タックスアンサーNo.5759 法人税の税率
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
  • 国税庁 防衛特別法人税が創設されました
    https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0025004-109_1.pdf
  • 国税庁 令和8年度税制改正 源泉徴収の改正案内
    https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/2026kaisei.pdf
  • 財務省 令和8年度税制改正の大綱(所得税)
    https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_06.htm
  • 国税庁 法人税基本通達9-2-27の3
    https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_07.htm
  • 国税庁 タックスアンサーNo.5211 役員に対する給与
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
  • 国税庁 タックスアンサーNo.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5364.htm
  • 国税庁 タックスアンサーNo.5364-2(相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5364-2.htm
  • 国税庁 タックスアンサーNo.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4114.htm
  • 国税庁 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第6回)資料
    https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260916/pdf/06shiryo_kabukaigi.pdf
  • 日本年金機構 厚生年金保険の保険料
    https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-01.html
  • 協会けんぽ 令和8年度 富山支部の保険料額表
    https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r8/ippan/16toyama.pdf
  • 協会けんぽ 令和8年度の都道府県毎の保険料率
    https://www.kyoukaikenpo.or.jp/about/business/insurance_rate/rate_prefectures/r08/index.html
  • 厚生労働省 標準報酬月額の上限の段階的引上げについて
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00024.html
  • 中小企業庁 令和9年度税制改正要望(中小企業者等の法人税率の特例の延長等)
    https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2027/request/meti/09y_meti_k_25.pdf
  • 財務省 令和8年度税制改正
    https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202604/202604c.pdf

執筆:株式会社アクアライフ 代表取締役 茶谷清士/税理士と社労士の隙間を埋める手取り最大化コンサルタント
※本記事は一般的な制度の解説です。個別の税務判断は提携税理士、社会保険の手続きは提携社労士と確認のうえ実施します。

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