社長の賞与を経費にするために「事前確定届出給与」を使いたい。けれど、届出の期限がいつなのか、出し忘れたらどうなるのかがはっきりしない。そんな法人の社長に向けた記事です。
この記事では、届出期限の決まり方を3月決算の会社の例で示し、株主総会での決議から支給、社会保険の届出までの実務の流れと、損金にならなくなる典型的な失敗を、2026年10月時点の国税庁・日本年金機構の資料をもとに整理します。
「顧問の税理士さんに任せているから大丈夫」と思っている方にも、社長自身が決めなければいけない点があることを知っていただきたい内容です。
結論:先にお伝えしたい3つのこと
- 届出期限は「決議の日から1か月」と「期首から4か月」のうち早い日です。3月決算で5月25日に定時株主総会を開く会社なら、原則として6月25日が期限です。
- 届け出た日に、届け出た額を、そのとおり払うことが条件です。多く払っても少なく払っても、原則としてその賞与の全額が損金になりません。
- 税務署への届出だけでは終わりません。支給後5日以内に年金事務所などへ「賞与支払届」、翌月10日までに源泉所得税の納付が必要です。
しくみ:なぜ「届出」が必要なのか
役員の賞与は、原則として経費にならない
法人税では、役員に払う給与(退職給与などを除く)のうち、次のどれかに当てはまるものだけが損金(法人税の計算上の経費)になります(法人税法第34条第1項)。
- 定期同額給与:毎月同じ額を払う、いわゆる役員報酬
- 事前確定届出給与:あらかじめ「いつ・いくら払うか」を決めて税務署に届け出たうえで、そのとおりに払う給与
- 業績連動給与:利益などの指標に連動する給与。同族会社は原則として使えません(同族会社以外の法人の完全子会社などを除く)
つまり社長に賞与を払って経費にしたいなら、事前確定届出給与として届け出るのが基本の道筋です。届出の手続きの根拠は法人税法施行令第69条第4項、内容を変える場合の変更届は同条第5項に定められています。
届出期限の決まり方
国税庁の説明(タックスアンサーNo.5211、令和8年4月1日現在法令等)では、届出期限は次の(1)と(2)のうちいずれか早い日です。
| 区分 | 期限 |
|---|---|
| (1)決議から | 株主総会等で決議をした日(職務の執行を始める日がその後なら、その日)から1か月を経過する日 |
| (2)期首から | その会計期間の開始の日から4か月を経過する日(申告期限の延長の特例を受けている法人は、延長の月数に3を加えた月数) |
| 設立したばかりの法人 | 設立の時に始まる職務について定めた場合は、設立の日以後2か月を経過する日 |
| 臨時改定事由がある場合 | (1)(2)の早い日と、臨時改定事由(役員の職制上の地位の変更や職務内容の重大な変更など)が生じた日から1か月を経過する日の、いずれか遅い日 |
3月決算の会社の例
3月決算の会社は、原則として5月末が法人税の申告・納税の期限です。決算は株主総会で承認を受けてから申告するため、申告期限の延長の特例を受けていない中小企業の多くは、5月中に定時株主総会を開きます。ここでは、5月25日の定時株主総会で役員の賞与を決め、その日から新しい職務が始まる場合で考えます。
- (1)決議の日から1か月を経過する日:6月25日
- (2)期首(4月1日)から4か月を経過する日:7月31日
- 早い方をとるので、期限は6月25日
「期首から4か月以内、つまり7月末までなら大丈夫」と覚えていると、1か月以上早い本当の期限を逃してしまいます。申告期限の延長の特例を受けて6月に総会を開く会社でも、考え方は同じで、決議の日から1か月と期首から4か月(延長の月数に3を加えた月数)の早い方が期限です。株主総会の日が決まったら、その場で期限を手帳に書き込むくらいがちょうどよいと思います。期限の日が土曜・日曜・祝日にあたる場合は、その翌日(休日明けの日)が期限になります(国税通則法第10条第2項)。実際の日付は顧問の税理士さんと確認してください。
内容を変えるときは「変更届」
一度届け出た内容は、自由には変えられません。変更届が出せるのは、次のような場合に限られます(同タックスアンサー)。
- 臨時改定事由(役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更など):その事由が生じた日から1か月を経過する日まで
- 業績悪化改定事由(経営状況が著しく悪化したことなど。減額する場合に限られます):変更を決議した日から1か月を経過する日まで。ただし、変更前の支給日がそれより前に来る場合は、その前日まで
「思ったより利益が出なかったから少し減らしたい」という程度では、業績悪化改定事由にはあたらないと考えておくべきです。
実務の流れ:決議から支給後の手続きまで
| 順番 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 支給額と支給日を決める | 業績の見通し、資金繰り、毎月の報酬とのバランスを決算前から検討しておく |
| 2 | 株主総会等で決議する | 「誰に・いつ・いくら」を議事録に残す |
| 3 | 税務署へ届出書を出す | 「事前確定届出給与に関する届出書」と付表を納税地の所轄税務署長へ。e-Taxでも書面でも出せる |
| 4 | 届け出た日に、届け出た額を払う | 額も日付もそのとおりに |
| 5 | 源泉所得税を納める | 原則として支払った月の翌月10日まで(給与の支給人員が常時10人未満で「納期の特例」の承認を受けている場合は、半年分をまとめて7月10日・翌年1月20日) |
| 6 | 賞与支払届を出す | 支払日から5日以内に、事務センターまたは管轄の年金事務所へ |
なお、2026年10月1日から、全国の税務署で総合窓口の受付時間が原則として9時から15時までになりました(開庁時間は8時30分から17時までのまま)。期限ぎりぎりに窓口へ持ち込む予定の方は、時間にも注意が必要です。早めの提出か、e-Taxでの提出をおすすめします。
源泉所得税は、通常「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で計算します。ただし、前月の給与がない場合や、賞与(社会保険料等を差し引いた後)が前月の給与(同)の10倍を超える場合は計算のしかたが変わります(国税庁タックスアンサーNo.2523)。毎月の報酬を低くして賞与を大きくする形では、この計算になることが多いので、給与計算の担当者さんにも伝えておきましょう。
どんな会社が気をつけるべきか
- 毎月の役員報酬を抑えて、賞与で受け取る形を考えている会社
- 株主総会が期首から3か月以内にある会社(多くの3月決算の会社)。「期首から4か月」より「決議から1か月」が先に来ます
- 役員が複数いて、役員ごとに支給日や額が違う会社
- 業績が年によって大きく動き、決めた額を払えるか不安がある会社
- 設立したばかりで、最初の期の扱いが分かりにくい会社
報酬の受け取り方を変えたときの社会保険料への影響は、関連記事「役員報酬の社会保険料を合法的に抑える方法|事前確定届出給与のしくみと注意点」で試算とともに解説しています。
注意点・デメリット:損金にならなくなる典型的な失敗
1. 届け出た額と違う額を払った
届出より少なく払っても、多く払っても、「定めどおり」ではありません。国税庁の質疑応答事例では、複数回の支給のうち1回でも定めどおりでなければ、原則としてその職務執行期間の支給額の全額が損金不算入になるとしています。ただし、職務執行期間が2つの事業年度にまたがり、翌事業年度の支給だけが定めと違った場合は、その分だけを損金不算入とする扱いが示されています。
2. 資金繰りが苦しくなって、払えなくなった
事前確定届出給与の一番の制約はここです。業績悪化改定事由にあたらない限り、「今回は減らす」「今回は見送る」という調整がしにくいしくみです。支給日に払えるだけの資金を、期の早い段階から計画しておく必要があります。
3. 支給日がずれた
届出書には支給の時期を書きます。届け出た日と違う日に払うと、定めどおりと認められないおそれがあります。振込の手配や休日の扱いまで、事前に決めておきましょう。
4. 社会保険の届出を忘れた
税務署への届出とは別に、社会保険の「賞与支払届」が必要です。役員の賞与も、健康保険・厚生年金の保険料の対象です。標準賞与額は、税引き前の賞与から1,000円未満を切り捨てた額で、上限は厚生年金が1か月150万円、健康保険が年度(4月〜翌3月)の累計573万円です。
5. ほかの役員への影響を心配しすぎる
一方で、ある役員の分が定めどおりでなかった場合でも、定めどおりに払ったほかの役員の分まで損金にならなくなるわけではない、と国税庁は示しています。役員ごとに管理すれば、被害は広がりません。
今やるべきこと:確認ポイント
- 次の定時株主総会の日と、そこから計算した届出期限の日を、税理士さんと共有しているか
- 賞与の支給日に、届け出る額を確実に払えるだけの資金の見通しがあるか
- 議事録に「誰に・いつ・いくら」が明記されているか
- 届出書の控え(e-Taxなら受信通知)を保管しているか
- 給与計算の担当者さんや社労士さんに、支給日と賞与支払届の期限が伝わっているか
- そもそも賞与で受け取る形が、税・社会保険・将来の年金や退職金まで含めて自社に合っているか
最後の点は、届出の手続きよりも大切です。手続きは正しくできても、受け取り方の設計そのものが会社や社長の状況に合っていなければ、手元に残るお金は思ったほど増えません。
まとめ
- 届出期限は「決議から1か月」と「期首から4か月」の早い日。3月決算・5月25日総会なら原則6月25日(休日なら休日明け)。
- 届け出た日に、届け出た額を払う。違えば原則として全額が損金不算入。
- 支給後は、源泉所得税の納付(翌月10日まで)と賞与支払届(5日以内)も忘れずに。
- 手続きの前に、受け取り方の設計が自社に合っているかを確かめることが大切です。
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面談はオンラインで全国対応です(北陸三県の方は、ご希望があれば2回目以降に訪問します)。顧問の税理士さんとの連携も可能です。一社ずつ時間をかけるため、お受けできるのは毎月5社までです。
時点と注意書き
本記事は2026年10月29日時点で確認できた法令・国税庁・日本年金機構の資料にもとづいています。国税庁のタックスアンサーは令和8年4月1日現在の法令等による説明です。制度は改正されることがありますので、実際の届出や支給の前に、最新の情報を顧問の税理士さんとご確認ください。
参考資料
- 国税庁 タックスアンサーNo.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
- 国税庁「[手続名]事前確定届出給与に関する届出」 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/5104.htm
- 国税庁「[手続名]事前確定届出給与に関する変更届出」 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/6059.htm
- 国税庁 質疑応答事例「定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)」 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/11/16.htm
- 国税庁 質疑応答事例「『事前確定届出給与に関する届出書』を提出している法人が特定の役員に当該届出書の記載額と異なる支給をした場合の取扱い」 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/11/13.htm
- 国税庁 タックスアンサーNo.2523「賞与に対する源泉徴収」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2523.htm
- 国税庁 タックスアンサーNo.2505「源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2505.htm
- 日本年金機構「従業員に賞与を支給したときの手続き」 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20141203.html
- 国税庁 法令解釈通達(国税通則法関係)第10条関係 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/tsusoku/01/03/10.htm
- 国税庁「税務署の窓口の受付時間」 https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/madoguchi_jikan/index.htm
- e-Gov法令検索 法人税法・法人税法施行令 https://laws.e-gov.go.jp/
執筆:株式会社アクアライフ 代表取締役 茶谷清士/税理士と社労士の隙間を埋める手取り最大化コンサルタント
※本記事は一般的な制度の解説です。個別の税務判断は提携税理士、社会保険の手続きは提携社労士と確認のうえ実施します。